時計は7時45分。自分が家を出なければいけない時間まで、あと10分。
この10分のあいだに、あなたの頭のなかでは何往復もの計算が走っているはずです。今日は間に合うか。遅刻の連絡を入れるか。上司になんと言うか。先週も同じことを言った気がする。そして最後に、いつも同じ場所にたどり着く。
——私、仕事を辞めたほうがいいんじゃないか。
「不登校 仕事 辞めるべきか」と検索する人の多くは、もう何週間もこの問いを一人で抱えています。誰かに聞きたいけれど、聞ける相手がいない。ママ友には言えない。職場にはもっと言えない。だから検索窓に打ち込むしかなかった。あなたもそうだったんじゃないでしょうか。
先に、私の立場をはっきりさせておきます。
私の子どもは、現状不登校ではありません。 お腹が痛くて行きにくい朝は、うちにもあります。それでも、いまは通えています。だから、毎朝あなたが立っているその場所に、私が立っているわけではありません。
行き渋りをしていたのは、私自身が子どもだったころの話です。小学生のとき、学校で吐いてしまったことがありました。そこから朝、足が向かなくなった。理由ははっきりしているんです。ただ、当時の私はそれを親にうまく説明できませんでした。
そして今は、在宅で仕事をしながら子どもたちと暮らしている親でもあります。
「学校に行けなくなった側の子ども」と「家で働く親」。この2つの立場から書ける話があると思って、この記事を書いています。あなたと同じ経験をした親のふりはしません。そのかわり、支援する側からは見えにくいことを、できるだけ正直に書きます。
それから、もうひとつ大事なことを先に。私は、不登校の専門家ではありません。 カウンセラーでも、教員でも、支援員でもないんです。
だからこの記事には、お子さんの状態を見立てたり、「こうすれば行けるようになります」と言ったりする話は一切出てきません。それは私にできることではないからです。 専門的な判断が必要なところは、そのつど窓口をご案内します。この記事でお渡しできるのは、あくまで「働き方をどう考えるか」の材料だけだと思ってください。
この記事でお伝えしたい結論を、先に置いておきますね。
「辞めるべきか、続けるべきか」は、実はいちばん先に答えを出すべき問いではありません。 先に決めることが別にあります。それを決めないまま辞めても続けても、しんどさはあまり変わらない。私はそう思っています。
数字の話から始めて、辞めた場合・続けた場合に実際何が起きるかを見て、そのあとで子どもだった側の記憶をお話しします。最後に、二択に押し込まれないための確認事項を5つ渡します。
10分では読み終わらない長さです。でも、今日決めなくていい話でもあります。お茶でも入れてから読んでください。
1. 辞めるか悩んでいるのは、あなただけではない
この章では、数字の話をします。アドバイスはしません。まずは「これは自分ひとりの問題ではない」というところに立ってもらいたいからです。あなたが今こんなに悩んでいるのは、意志が弱いからでも、段取りが下手だからでもないんですよ。
1-1. 不登校の小中学生は約35万人。12年連続で増えている
まず、子どもの側の数字から。
文部科学省の令和6年度(2024年度)「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、小・中学校の不登校児童生徒数は353,970人。内訳は小学校137,704人、中学校216,266人です。過去最多で、増加は12年連続。
35万人という数字は、ちょっと想像しづらいですよね。同じ文部科学省の「令和6年度学校基本調査」によると、小学生は594万2千人、中学生は314万1千人。合わせて約908万人です。ここから計算すると、およそ26人に1人。40人学級なら、クラスに1人か2人はいる計算になります。あなたのお子さんの学校にも、同じ状況の家庭はおそらく複数あるということですね。
ちなみに、この調査では新規に不登校になった子は153,828人で、9年ぶりに減少しています。全体の増加率も2.2%まで下がりました。増え続けてはいるけれど、増え方の勢いは落ちてきている。そういう局面です。
1-2. 保護者の95.4%が「仕事との両立が大変だった」と答えている
ここからが、この記事の本題です。
NPO法人キーデザインが2026年に実施した「不登校離職 実態調査2026」では、不登校・行き渋りを経験した子どもの保護者のうち、95.4%が「仕事との両立が大変だった」と回答しています。
95.4%。ほぼ全員です。
つまり、両立できている人が2割か3割いて、あなたはそこに入れなかった、という話ではないんですよね。ほぼ全員が同じところで詰まっている。うまくやれている人を探すほうが難しい、という数字なんです。
朝の見送りができない。急な呼び出しに出られない。早退が重なって職場に居づらい。この3つは、あなた個人の要領の問題ではなく、この状況に置かれた人がほぼ全員ぶつかっている壁だと考えてください。
1-3. 母親の22.76%が離職。「不登校離職」という言葉がある
そして、実際に仕事を手放した人の数字です。
同じ調査で、母親の22.76%が離職を経験しています。東洋経済の報道によると、不登校の子の保護者の4人に1人が離職・休職を経験しています。さらに8割が仕事に影響を受け、4割が収入減を経験したと報じられました。「不登校オンライン」が438名に行ったアンケートでは、約6割が退職・転職・働き方の変更のいずれかを経験しています。
ここで知っておいてほしいのは、「不登校離職」という言葉がすでに存在しているということ。
言葉があるというのは、それが個別の家庭の失敗ではなく、社会の側で名前をつけて数えるべき現象として認識され始めた、ということなんですよね。あなたが今直面しているのは、名前のついた社会課題です。あなたの努力不足という話ではありません。
数字を見て、少しだけ肩の力が抜いてもらえたでしょうか。ここからは、その「辞める」を実際に選んだとき、何が起きるのかを見ていきます。
2. 仕事を辞めたら、実際に何が起きるのか
辞めることを考えるとき、私たちはたいてい「辞めたらラクになる」の側だけを想像します。でも実際に辞めた人の話を読んでいくと、手に入るものと失うものが、思っていたのとは少し違う形で並んでいるんです。この章は、その並べ直しです。
2-1. 手に入るもの:朝の余裕、呼び出しに怯えない日常、罪悪感が減ること
辞めていちばん大きく変わるのは、朝の時計から解放されることです。
行き渋りの朝がしんどいのは、子どもが行けないことそのものより、「私は何分後に家を出なければいけない」というタイマーが同時に走っているからなんですよね。子どもの様子を見たい気持ちと、時計を見なければいけない現実が、頭のなかで殴り合いをしている。この二重の負荷が消えます。
具体的に、手放せるものを挙げてみます。
- 朝、時計を見ながら子どもの背中を見る、あの引き裂かれる感じ
- 勤務中にスマホが鳴るたび、学校からじゃないかと身構えること
- 早退や欠勤を申し出るときの、上司の表情をうかがう時間
- 「またすみません」と言い続けることで、少しずつ削れていく自尊心
辞めることのいちばんの効果は、時間的・心理的なゆとりが生まれて、子どもの気持ちに寄り添った細かい対応がしやすくなること。複数の不登校支援サイトで、共通してそう説明されています。心の容量が空くんです。これは、かなり大きい。
2-2. 失うもの:収入、社会とのつながり、ブランクと再就職のハードル
一方で、失うもの。これは3つあって、気づく順番が違うのがやっかいなところです。
1つ目は収入。これはすぐに気づきます。前述の調査で4割が収入減を経験しているのは、辞めた人と働き方を落とした人の両方を含んだ数字です。
2つ目は社会とのつながり。これは少し遅れてやってきます。職場は、あなたが「◯◯さんのお母さん」ではない時間を過ごせる唯一の場所だったかもしれません。それがなくなると、一日の会話相手が家族だけになる。
3つ目はブランク。これは、もっとあとになって効いてきます。離職期間が長くなるほど、同じ条件で戻るのは難しくなる。これは不登校に限らず、育児離職全般で起きることですね。
つまり、辞めることのつらさは時間差でやってくる。辞めた直後は「辞めてよかった」と感じる人が多いのに、半年後の感想が分かれるのは、このタイムラグのせいだと私は思っています。
2-3. 見落とされがちな副作用:親が家にいることが、子には「見張られている」に変わることがある
そして、ここが上位の記事があまり書いていないところです。
親が24時間家にいることは、子どもにとって必ずしも安心とは限りません。
辞めることのデメリットとして、複数の不登校支援サイトが共通して指摘しているのがこれです。家にいる子どもの様子が四六時中目に入ることで、親の焦りや不安がかえって強くなる。そして子どもの側は、「自分のせいで親が仕事を辞めた」「親に迷惑をかけている」と自分を責めるきっかけになりうる、と。
この差を言葉にするなら、「親が家にいる」と「親が家で自分の時間を持っている」の違いだと思います。
前者は、子どもから見ると自分が観察対象になっている状態。後者は、親が親の用事をしているだけの状態。同じ「家にいる」でも、子どもが受け取るものはまるで違います。仕事を辞めて、一日中子どものことだけを考える体制を作ってしまうと、家のなかの空気は思ったより張り詰めます。
だから、辞めるかどうかを考えるときに一緒に考えてほしいのは、辞めたあと、あなた自身の時間をどこに置くかなんですよね。ここが空白のまま辞めると、親子で息が詰まる。
さて、では逆に、辞めずに続けたらどうなるのか。次はそちらを見ていきます。
3. 仕事を続けたら、どこで詰まるのか
続けると決めた人がどこで力尽きるのか。これは「気持ちの持ちよう」の話ではありません。段取りの話です。詰まるポイントは決まっていて、しかもそのほとんどが、あなたの努力ではどうにもならない構造の問題なんですよ。
3-1. 朝の時間が読めない生活と、決まった時刻の出勤は根本的に相性が悪い
いちばん大きいのは、これです。
行き渋りの朝が他の「子どもの体調不良」と決定的に違うのは、朝にならないと結果が分からないという点。熱なら6時に測れば分かります。でも行き渋りは、7時に「行く」と言っていた子が7時40分に動けなくなることがある。逆もあります。
つまり、その日の予定が確定するのが、家を出る5分前なんですよね。
この「読めなさ」と、9時出社という固定された時刻は、構造として噛み合いません。どれだけ前倒しで準備しても、どれだけ効率化しても解決しない。時間の性質が違うからです。
だから、続けると決めた人がまず手をつけるべきは、根性ではなく「出勤時刻の固定を外せないか」という一点になります。フレックス、時差出勤、直行、在宅勤務。使えるものが一つでもあるなら、そこが最初の交渉先です。
3-2. 学童が使えないという現実的な壁
もう一つ、低学年の家庭を直撃するのがこれ。
学校に行けていない子は、放課後児童クラブ(学童)を使えないことが多いです。学童は基本的に「授業終了後」に子どもを預かる仕組みなので、そもそも登校していない子は制度の想定の外側にいます。
ただし、ここは運用が自治体や施設によってかなり違います。事情を説明したら受け入れてもらえた、という家庭もあります。あきらめる前に、お住まいの自治体の担当窓口に一度確認してみてください。
これがどれだけ厳しいかというと、共働き家庭が持っていた「学校+学童で17時まで」という前提が、まるごと消えるということです。9時から17時までの8時間を、誰が見るのか。この問いに答えが出せないまま、多くの家庭が働き方の変更を迫られていきます。
祖父母が近くにいる家庭ばかりではありません。いても、毎日は頼めない。ファミリーサポートや自治体の預かり事業も、平日日中に継続して使うには枠も費用も現実的でないことが多い。
だから、パートに切り替えても解決しないケースが出てくるんです。「不登校 パート 続けられない」と検索する人がいるのは、時間を減らしても日中の空白そのものは埋まらないからなんですよね。
3-3. 職場にどう伝えるか問題。病気と違って説明しづらい
そして、じわじわ効いてくるのがこれ。
インフルエンザなら「5日休みます」と言えます。骨折なら「1か月は迎えが必要です」と言えます。でも行き渋りは、終わりの見通しを自分でも言えない。
「子どもがちょっと学校に行きづらくて」と言った瞬間、相手の頭に「?」が浮かぶのが分かる。深刻さが伝わらないか、逆に伝わりすぎて腫れ物扱いされるか。どちらに転んでも気まずい。だから言葉を濁して「体調不良で」と言い続けることになり、その嘘がまた自分を削っていく。
Q&Aサイトを見ていると、この「職場にどこまで話すか」で悩んでいる人が本当に多いんです。参考までに、比較的うまくいっている人の伝え方には共通点があります。
- 原因や家庭の事情は詳しく話さず、必要な配慮だけを具体的に伝える(例:「朝の30分だけ読めない日があります」)
- 期間を「分からない」と言わず、「3か月ごとに状況を共有させてください」と区切って伝える
- 謝罪を繰り返すのではなく、代わりにできることをセットで出す(前日夜の作業、緊急時の連絡体制など)
続けるという選択は、根性で乗り切るものではなくて、この3つの壁それぞれに手を打てるかどうかで決まります。打てるなら続けられるし、どれも打てないなら、続けるのは相当きつい。
ここまで、辞める場合と続ける場合を並べてきました。次の章では、少し視点を変えます。子どもの側から、この状況がどう見えているかの話です。
4. 行き渋りをしていた私が、親になって思うこと
ここからは、統計もアドバイスも出てきません。私が子どもだったころの話をさせてください。この記事のなかで、いちばん書きたかった章です。
4-1. 私が行けなくなった理由は、はっきりしています
小学生のとき、私は学校で吐いてしまったことがあります。
それだけのことです。体調が悪かったのか、緊張していたのか、いまとなっては分かりません。ただ、みんながいる場所で吐いてしまった。その事実だけが残りました。
とにかく、恥ずかしかったんです。
そのあと、そのことでいじられました。悪意のある、いじめと呼ぶような激しいものではなかったと思います。ちょっとしたからかい。言った側は、たぶん次の日には忘れているような。でも言われた側は、朝、教室のドアを開けるたびに思い出すんですよね。
そこから、私の行き渋りが始まりました。
朝になると足が向かない。理由は自分でも分かっている。分かっているのに、体が動かない。あのころの朝の感じは、今でも覚えています。家のなかの音がやけに大きく聞こえるんですよ。時計の音とか、台所の水の音とか。時間が進んでいく音が全部、自分を追い立ててくるように聞こえる。
4-2. でも私は、その理由を親に言えませんでした
ここが、いちばん伝えたいところです。
私には理由がありました。でも、それを親に説明することはできませんでした。
なぜかというと、恥ずかしかったからです。 吐いてしまったことも、それでからかわれていることも、口に出したくなかった。言葉にした瞬間に、もう一度その場面をなぞることになるからです。
だから私が言えたのは、たぶん「行きたくない」だけでした。
親から見たら、これは相当わけが分からなかったと思います。昨日まで普通に行っていた子が、急に行きたくないと言い出す。理由を聞いても答えない。心当たりもない。「理由がないのに行きたがらない」ように見えていたはずです。
でも、理由はありました。言えなかっただけです。
だから、もしいまあなたが「うちの子は理由を言わない」「何を聞いても黙っている」という状態にいるなら、これだけ覚えておいてほしいんです。子どもが理由を言わないのは、理由がないからではありません。 言葉にするのがつらいことほど、言えなくなります。とくに、恥ずかしさが混じっている理由は、いちばん最後まで言えません。
4-3. うちは「基本は休んでいい、行けたら行っておいで」でした
では、うちの親がどうしたかというと。
基本は、休んでいい、という家でした。
「行きなさい」と押し切られた記憶がありません。かわりに言われていたのは、「行けたら行っておいで」くらいの、ゆるい言い方だったと思います。
いま振り返って、これは相当ありがたかったんですよね。理由を言えない私に対して、理由を問い詰めなかった。行けない私に対して、行けと言わなかった。ただ「行けたら行っておいで」と置いてくれた。
うちは自営業で、家にはいつも家族の誰かがいました。だから、私が家にいても、誰かが「なんで行かないの」と張りついてくることはなかったんです。みんな自分の仕事をしていて、私は隅にいる。その距離感が、ちょうどよかった。
あのとき「なんで行かないの」「理由を言いなさい」と詰められていたら、私はもっと言えなくなっていたと思います。 言えない理由を追及されるのは、行けない自分を責める材料が増えるだけなので。
4-4. 「行けたら行っておいで」と言えるかどうかは、親の余裕で決まる
ここまで書いてきて、私が言いたいことは一つです。
私に効いたのは「親が家にいたこと」そのものよりも、「行けたら行っておいで」と言ってもらえたことでした。
そして、大人になってから気づいたんですけど、この一言は、余裕がないと出てこないんですよね。
朝、自分が出勤する時間が迫っている。今日休まれたら仕事に穴があく。上司に何度目かの電話をしなければいけない。その状態で「行けたら行っておいで」と言うのは、かなり難しい。どうしても「なんで?」「行けるでしょ?」が出てしまう。それは親が冷たいからではなく、単純に余裕がないからです。
だから、あなたが今いちばん先に考えるべき問いは、こう立て直せると思っています。
「私は仕事を辞めるべきか」ではなく、「朝、あの子に『行けたら行っておいで』と言えるだけの余裕が、うちにあるか」。
これは、必ずしも仕事を辞めないと手に入らないものではありません。朝の出勤時刻が1時間ずれるだけで言えるようになるかもしれないし、在宅の日が週に1日あるだけで変わるかもしれない。逆に、辞めても家計の不安で余裕がなくなれば、同じ言葉は出てこない。
必要なのは「そばにいる体制」ではなく、「朝に余裕がある状態」です。 そう考えると、辞める以外の手が一気に増えます。次の章で、その具体を見ていきます。
そして念のために書いておくと、これは私一人の記憶から出た話です。子どもによって、必要なものはまったく違います。私の場合はこうだった、というだけの話として受け取ってください。
5. 「辞める・続ける」の二択にしない。決める前に確認する5つのこと
では、具体的にどう決めるか。
多くの記事は「どちらが正解ということはありません、ご家庭に合った選択を」で終わります。でもそれ、いま玄関で固まっている人にはあまり届かないですよね。だからここでは、気持ちの整理ではなく、チェックできる項目にして渡します。紙とペンを用意して、5つとも埋めてみてください。
5-1. 辞めたら家計は何か月もつのか(気持ちではなく数字にする)
まず、いちばん現実的なところから。
「収入が減るのは不安」ではなく、何か月もつのかを数字で出します。
- 手取りが月いくら減るか(ボーナス・社会保険料の変化も込みで年額から逆算)
- 貯金がいくらあるか
- 減った分を貯金で埋めた場合、何か月もつか
この計算をすると、多くの人が「思ったよりもつ」か「思ったよりもたない」のどちらかに振れます。どちらでもいいんです。大事なのは、期限のある数字にすること。「6か月はもつ」と分かれば、その6か月を使って次を探せます。数字が出ていないうちは、不安が無限に広がるので判断ができません。
5-2. 子どもは「親が家にいること」を望んでいるのか
これ、聞いたことがありますか?
親は「そばにいてあげたい」と思う。でも子どもが望んでいるのは、そばにいることではなく、責められないことかもしれません。第4章で書いたとおり、この2つは別物です。
もちろん、低学年で「一人は怖い」という子もいます。それならそばにいることが答えです。でも高学年や中学生だと、「一人の時間がほしい」という子も少なくありません。聞かずに辞めてしまうと、お互いにとって望んでいない配置ができあがることがあります。
5-3. 今の職場に、まだ使っていない制度は本当にないか
辞める前に、使い切っていないカードがないか確認してください。
- 時差出勤・フレックス(朝の固定時刻を外せるかが最重要)
- 在宅勤務・部分在宅(週1でも効果があります)
- 時間単位の年次有給休暇(1時間単位で取れる制度がある職場が増えています)
- 短時間勤務、部署異動、業務内容の変更
- 子の看護等休暇(対象範囲は勤務先の規定で異なるので要確認)
「うちの会社にはない」と思っていても、就業規則を読み直すと使えるものが残っていることがあります。総務や人事に「制度として何が使えるか」だけを聞くのは、事情をすべて話すのとは別の行為です。
5-4. それは「今日」決めないといけないことか
辞める判断は、たいていいちばん消耗している日に出てきます。
呼び出しが重なった週、上司に嫌な顔をされた日、子どもが泣いた朝。その日の夜に「もう無理だ」と思う。当然です。でも、その状態で出した結論は、翌週には違って見えることがあります。
退職は取り消せませんが、休職や有給消化は取り消せます。 どうしても限界なら、まず一時停止できる方法から探してください。「辞める」の前に「止める」があります。
5-5. 一人で決めようとしていないか
最後に、これがいちばん大事かもしれません。
Q&Aサイトを読んでいると、多くの人が家庭内で一人で背負っています。とくに母親側に判断も実務も集中しがちです。夫婦で温度差があると、相談すること自体がしんどくなって、結果として一人で決めることになる。
決める前に、少なくともこの3方向には声をかけてみてください。
- 学校(担任だけでなく、スクールカウンセラー・養護教諭・教育支援センター)
- 自治体の窓口(子ども家庭支援センター、教育相談室。無料で継続相談できるところが多いです)
- 同じ立場の親の会(オンラインのものも増えています)
5つとも埋まったら、答えは自然と絞られてきます。そしてその答えが「辞める」でも「続ける」でもない場合があるので、次の章でその話をします。
6. 第三の選択肢としての在宅ワーク
ここで在宅ワークの話をしますが、先に釘を刺させてください。私は「在宅ワークにすれば解決します」とは言いません。 そう書いてある記事は、たいてい何かを売りたい記事です。私自身が在宅で働いているからこそ、いい面と厳しい面の両方を書きます。
6-1. 「朝、家を出る時間が読めない」生活と、在宅という働き方の相性
在宅ワークがこの状況に効くとしたら、理由はひとつだけです。
朝、決まった時刻に家を出なくてよくなること。
第3章で書いたとおり、行き渋りの朝の本質的な問題は「予定が確定するのが直前」という点にありました。在宅で働くと、この読めなさを吸収できます。子どもが8時に動けなくても、9時に落ち着いてから仕事を始められる。午前中が潰れたら、夜に回せる仕事もあります。
私の場合も、いま決まった時刻に家を出ない働き方をしています。これがどれだけ気持ちの余裕になるかは、実際にやってみて初めて分かりました。朝の時計と戦わなくていいというだけで、頭のなかの容量がかなり空くんです。
それから、第4章で書いた「家に人の気配があるけれど、その人は自分の仕事をしている」という状態。これは在宅ワークとかなり相性がいい配置です。つきっきりにならずに、家にいられる。
6-2. 正直に書きます。在宅ワークは魔法ではありません
ただし、ここからが本題です。辞めてすぐ在宅で同じだけ稼げる、ということはまずありません。
- 収入が立つまでに時間がかかります。 最初の数か月は、前職の月収に遠く及ばないと考えたほうが現実的です
- 仕事は自動的には来ません。 自分で探して、応募して、断られる工程が必ずあります
- 家にいる=時間があるとは限りません。 家事と仕事の境目が消えるので、かえって働きすぎる人もいます
- 子どもがそばにいる時間帯は、まとまった作業ができません。 これは在宅ワーカー共通の悩みです
つまり在宅ワークは、時間の融通は手に入るけれど、収入はすぐには戻らない選択肢です。ここを勘違いしたまま勢いで辞めると、「時間はできたのにお金がない」というもうひとつのしんどさを抱えることになります。
第5章の5-1で家計の数字を出してもらったのは、このためでもあります。収入が立ち上がるまでの期間を、貯金で買えるかどうか。そこが判断の分かれ目になります。
6-3. 辞める前に、小さく試す順番
だから私がおすすめするのは、辞めてから始めるのではなく、辞める前に小さく試すという順番です。
- まず、いまの職場で在宅・時差の交渉をする。(第5章5-3。ここが通れば、そもそも辞めなくて済みます)
- 通らなければ、働きながら月1〜2万円規模で在宅の仕事を1件やってみる。 実際にやると、自分に向いているか、家の環境で回るかが分かります
- 3か月続けて手応えがあれば、勤務日数を落とす。 いきなり退職ではなく、段階的に軸足を移します
- 収入の見通しが立ってから、退職を判断する。
遠回りに見えますよね。でも、退職は取り消せません。取り消せない判断は、いちばん最後に置いたほうがいい。
そしてもし、いま経済的にも時間的にもその余裕がないなら、在宅ワークは今日の選択肢ではありません。 それは半年後に取っておいて、今日は第5章の5つの確認と、次の章の相談先に時間を使ってください。そのほうが、いまの状況には効きやすいと思います。
7. よくある質問(Q&A)
Q&Aサイトに実際に寄せられている質問から、特に多いものをまとめました。ここでは断定的な答えは書きません。「こういう声が多い」という事実と、考え方の軸だけをお渡しします。
Q1. フルタイムからパートに変えた人は多いですか?
多いです。ただ、注意点があります。第3章で書いたとおり、勤務時間を減らしても日中の空白そのものは埋まりません。パートに変えたのに結局しんどい、という声が一定数あるのはこのためです。時間を減らすより先に、「朝の固定時刻を外せるか」を確認したほうが効くケースがあります。
Q2. 子どもを一人で家に残して仕事に行ってもいいですか?
年齢と、その子の状態によります。一律の正解はありません。ただ、低学年で「一人が怖い」と言っている場合と、高学年以上で「一人のほうが落ち着く」と言っている場合では、まったく別の判断になります。本人に聞いてみるのが先で、そのうえで安全面(火・戸締まり・体調急変時の連絡手段)を具体的に詰める順番になります。判断に迷う場合は、学校のスクールカウンセラーや自治体の相談窓口に、状況を具体的に伝えて相談してください。
Q3. シングルマザーで、辞める選択肢がない場合はどうすれば?
「辞める・続ける」の二択で考えないでください、というのがこの記事全体の主旨ですが、この場合はとくにそうです。使えるものを一つずつ確認していくことになります。勤務先の制度(第5章5-3)、自治体のひとり親支援窓口、子ども家庭支援センター、ファミリーサポート、学校の教育支援センター。一人で全部抱えて判断しようとすると詰まりやすいので、まず窓口を一つ増やすところから始めるのが現実的です。
Q4. 職場にはどこまで説明すればいいですか?
家庭の事情を全部話す必要はありません。伝えるべきなのは「必要な配慮」と「期間の区切り方」の2点だけ、と考えている人が多いようです(第3章3-3に具体的な伝え方を書いています)。深く話しすぎると腫れ物扱いになり、話さなすぎると理解されない。この中間を探ることになります。
Q5. 中学生なら留守番させても大丈夫ですか?
年齢だけでは判断できません。Q&Aサイトでは「いつ暴れるか分からず、家に一人にできない」という切実な声も見られます。お子さんの状態に不安がある場合、これは働き方の問題ではなく支援につなぐべき問題です。学校、スクールカウンセラー、児童相談所、医療機関など、専門の窓口に早めに相談してください。仕事をどうするかの判断は、そのあとで構いません。
まとめ|辞めるかどうかより、先に決めることがある
長い記事を、ここまで読んでくださってありがとうございます。
最後に、この記事でお伝えしたかったことをもう一度だけ。
あなたが検索した問いは「仕事を辞めるべきか」でした。でも私が本当にお渡ししたかったのは、問いの立て直しです。
「私は仕事を辞めるべきか」ではなく、「朝、あの子に『行けたら行っておいで』と言えるだけの余裕が、うちにあるか」。
私が学校に行けなくなったとき、うちの親は理由を問い詰めませんでした。かわりに「行けたら行っておいで」と置いてくれた。あのゆるさに、どれだけ助けられたか分かりません。
でも、あの一言は余裕がないと出てきません。必要なのは「毎日そばにいる体制」ではなく、「朝に余裕がある状態」です。 そう考えると、答えは「辞める」か「続ける」かの二択にはならないはずなんですよね。出勤時刻を1時間ずらすだけで言えるようになることもあるし、辞めても家計の不安で余裕を失えば同じ言葉は出てこない。決まるのは働き方そのものより、朝の余裕のほうです。
そのうえで、今日できることを3つだけ置いていきます。
- 数字を出す。 辞めたら家計が何か月もつのか。今日、紙に書いてみてください(第5章5-1)
- 職場のカードを確認する。 就業規則を開いて、時差出勤・在宅・時間単位の有給が使えないか調べてください(第5章5-3)
- 窓口を一つ増やす。 学校のスクールカウンセラー、自治体の教育相談室、子ども家庭支援センター。どれか一つに、来週、連絡を入れてください
3つ目がいちばん大事です。この問題は、一人で決めきれるようにはできていません。
それから、これだけは書いておきます。「そのうち行けるようになりますよ」という言葉を、私はあなたに言いません。 私は自分の場合しか知らないし、子どもによって道のりはまったく違うからです。無責任な保証より、今日確認できることを渡すほうが役に立つと思っています。
そしてもう一度だけ書きます。私は専門家ではありません。
行けなくなった側にいた人間として、話を聞くことはできます。「そういう朝、ありますよね」と言うことはできる。でも、聞くことと、判断することはまったく別です。 お子さんに何が起きていて、これからどうすればいいのか。それを見立てられるのは、専門の人たちだけなんですよね。
だから、次のようなときは、私のような個人の記事ではなく、必ず専門の窓口を使ってください。
- お子さんの体調に変化があるとき(眠れない、食べられない、頭痛や腹痛が続く、体重が減る)→ 小児科・かかりつけ医
- 学校とのやり取りや出席の扱いで困っているとき → 担任・スクールカウンセラー・自治体の教育相談室(教育支援センター)
- 暮らしや就労のことも含めて相談したいとき → 子ども家庭支援センター・自治体のこども家庭センター
- 夜間や休日に、今すぐ誰かに話したいとき → 24時間子供SOSダイヤル 0120-0-78310(文部科学省/24時間・年中無休・通話料無料。子ども本人でも保護者でもかけられます)
そして、あなた自身が眠れない・食べられないという状態が続いているときも、同じです。働き方の判断より先に、医療機関にかかってください。親が倒れてしまうと、家は休める場所ではなくなります。 あなたが休むことも、ちゃんと対策のうちに入っています。
今日は、玄関で固まる朝を、もう一回乗り切っただけで十分だと思いますよ。

コメント